クローズアップ現代2013年3月13日(水)放送 “大人の発達障害”個性を生かせる職場とは? 書き出し。

全文 クローズアップ現代2013年3月13日(水)放送 “大人の発達障害”個性を生かせる職場とは?

<大人の発達障害とは>
・集中力や記憶力は優れている場合がある。
・独特な言動で日常生活に支障をきたす。
・具体的には適切なコミュニケーションが取れない(コミュニケーション能力の欠如)
 →コミュ力の欠如により、職場でトラブルを起こし、孤立し鬱診断を受ける。

すこし個性の強い人が職場で孤立し、鬱病の診断を受ける。最新の調査では、
この傾向がある人は全体の10%程度である。長引く不況で、コミュ障を相手にする
余裕が会社に無くなっている。

彼らは子供の頃は学習が順調で、家族や友達など気の合った人とだけ付き合って
いれば良かったから、問題無く過ごしたが、就職して人間関係が複雑になると、
天性のコミュ力欠如で意思疎通に困り挫折し立ち直れない。

<現状>
世田谷区の昭和大学附属烏山病院では、月に一度だけ、大人の発達障害外来の
初診の受付をする。この日は電話が殺到し、2013年の3月分頃で初診は200件程度。
これは4年前の開設時の10倍の件数である。

=典型例 再現VTR=
(発達障害者の疑いのある者をコミュ障と表す。こっちの方が理解しやすいので)
●とある職場
上司:皆残業しないと間に合わないので君もお願いね。
コミュ障:風が強いので早めに帰ります。お疲れ様でした(スタスタ帰る)
(上司と周りの人、唖然)
●出張の報告
上司:出張どうだった?
コミュ障:はい、8時に新幹線に乗りまして、11時には大阪駅に着きました、…
ナレーション:相手の質問に短く答えられない。
●30代 IT会社社員(職場の雰囲気が理解できない)
上司:この仕事お願い、急ぎじゃないから適当にやっておいて。
コミュ障:はい。
  〜3日後〜
上司:この前頼んだ仕事どうなった?
コミュ障:急ぎではないのでまだ手をつけておりませんが何か?
上司:(ムッとして)確かにそう言ったけど、限度があるだろう
コミュ障:すみません。
●20代 メーカー会社員
ナレーション:言われたことを文字通り鵜呑みにする。
上司:わからないことがあったら「いつでも声をかけてな」
コミュ障:ありがとうございます。
  〜上司の席〜
コミュ障:あのー、これどうしたら?
上司:ああ、これね、タカギさんがやっていたやつなんだ
  〜上司の席、上司はパソコンに向かって難しい顔をして仕事中〜
コミュ障:えっと、この場合はどうしたら
上司:ん? ・・・ 
  〜円卓、上司は誰かと打ち合わせ・指示をしている〜
コミュ障:あの、これなんですけどー。
上司:お前なあ!(怒)
コミュ障:声をかけろと言ったじゃないですか。

発達障害者は、自覚が無いまま相手を怒らせてしまう。そして、
コミュニケーション能力不足で、孤立し、結果、鬱病のようになる。
不況で職場に余裕が無くなる中、これまでなら少し個性が強いだけ
と考えられていた人が、大人の発達障害外来を受診するケースが増えている。

昭和大学附属烏山病院 加藤進昌先生
「コミュニケーション能力を問題にする風潮が強いことは、
1つ確かにあるかもしれません」
(VTR編集でカット)
「それは結局その人達の才能を生かさない会社、生かさない職場であるという
ことに、なってしまうかもしれませんね」

職場でのコミュニケーションが上手くいかず、鬱病になった女性のが紹介される。
この女性は広汎性発達障害の一つであると診断されています。(サインバルタの薬の束)

女性「人とのコミュニケーションに悩んで、あのちょっと病んでいたみたいな部分
があります」

=広汎性発達障害の女性 再現VTR=
ナレーション:9年前、この女性は大手通信会社で働いていた。ある時上司から経験
したことのない仕事を頼まれます。
上司:いつもみたいにやっておいてくれれば大丈夫だから
女性:いつもみたいに、と、言われても・・・
ナレーション:上司の言葉の意味を巡って考えこんでしまい、5時間何も手を付けず
に過ごしました。5時間後、上司は、何一つ手を付けてないことに対し叱責しました。
この出来事がきっかけで上司との関係が悪化しました。

次第に職場で孤立し、強いストレスを感じるようになりました。そして、病院で鬱病
の診断を受けました。半年後、出社拒否が始まりました。その後女性は転職を繰り返し
ますが、最初の職場で人間関係が作れなかったという悩みが尾を引き、どこも長続きしませんでした。
そして、今年1月より生活保護を受け始めました。

女性「うまくレールに乗ることができないで、転げ落ちちゃったから、今ここにいるん
だな、みたいな」
(VTR編集でカット)
女性「私のように どうしても普通にできない人間ははみ出していってしまうんだろうな」

<東京大学附属病院 文京区 精神神経科発達障害を抱える人は、なぜコミュニケーションがうまくとれないのか。東京大学病院
ではそのメカニズムの研究を進めています。その実験の一つが、笑顔で否定的な言葉
(ここでは「ひどいね」)を言われた場合、人の脳がどう反応するかを調べるものです。

普通の人は、言葉だけでなく、相手の表情でも意図や気持ちを判断します。その言葉が
酷くても、表情から本心でないことを理解します。その場合、内側前頭前野(ないそく
ぜんとうぜんや)と呼ばれる部分が活性化します。一方、広汎性発達障害の人は、内側
前頭前野はそれほど反応していません。表情から相手の意図を解釈する力が弱いからだ
と見られています。

東京大学附属病院 精神神経科 山末英典先生
「忙しさの中で、求められることが、臨機応変が多くて、あるいは多様だったりすると
やりにくいと思いますね」
(VTR編集でカット)
「社会生活上、あるいは集団生活上、困難が出てしまうと」

<国立精神・神経医療研究センター部長 神尾陽子先生>
こうした性質も踏まえて、職場を作り上げていかないといけないという専門家もいます。
「これがチェックリストなんですけども」
精神科医の神尾陽子先生は全国2万人を対象に広汎性発達障害の傾向があるかどうかを
調査しました。

その結果、10%以上の人に強い特性(55点以上)があることがわかりました。
今後、職場に益々ゆとりが無くなるにつれ、鬱病などになる可能性があるとしています。

「社会が心の健康に無関心であり続けるならば、不安だとか、うつの症状を持つ人たちは
今後増えていくと思います。」
(VTR編集でカット)
「その結果、いろいろな多様な才能や意欲や人々の活用ができなくて、社会全体が損害を
被っていると思います」

<スタジオ>
ゲストは発達障害者の就労支援に詳しい、宇都宮大学教授の梅永雄二先生

キャスター「残念ながら、発達障害に対する理解が進んでいないというのが現状の
ようですが、原因はどこにあるとお考えでしょうか。」
梅永先生「まず障害といっても、身体障害のように目に見える障害ではないし、、
知的障害ともちがって、普通に小学校中学校高校大学と進学する人もいます。
そういった状況から、一般の方々には理解出来ないんじゃないかと思います。」
キャスター「発達障害者支援法が出来たのが、8年前ですよね」
梅永先生「そうですね、平成17年の4月1日に施行されました」
キャスター「なかなかまだ浸透しないというのが現状なのですね」
梅永先生「そうですね」

キャスター「どうして今、発達障害のある人が、企業・仕事をする中でこんなに
苦労しているのでしょうか」
梅永先生「それは、仕事そのものが変化しているからです。以前は、一次産業(農林業水産業とか)それから二次産業(工場・工業)ですね。で、三次産業、これがサービス業
と。こういった変化についていけないっていうのが一つだと思います。
つまり、一つの仕事だけをやっていればいいというのではなくて、いくつかの仕事を応用
していかなければならない。こういった所に非常に不得手なところをお持ちの方が、
発達障害の方に多いと思います」
キャスター「はぁ…、その人の向き不向きじゃなくて、いろいろなことをこなさないと
いけないと、そういう時代になっている、それがプレッシャーになっていると。」
梅永先生「そうですね、一つの仕事であれば、問題なくこなすことができるとしても、
複数になってくると混乱を示す場合が考えられます。」

キャスター「はい。さぁその大人になって発達障害と診断される人達はいますよね。その
人達は診断前と診断後でどんな変化があるのでしょうか」
梅永先生「人によって違うかもしれませんが、私のところに相談に来られる多くの方々は
診断されてほっとしたという方が非常に多いですね」
キャスター「ほっとしたですか?!」
梅永先生「精神的にも疲れがとれたような感じでしょうか。」
キャスター「ショックを受けるということは・・・」
梅永先生「逆ですね。」
キャスター「あ、そうですか。」
梅永先生「なぜかといいますと、今までずーっと生きづらかったとおっしゃるのです。
小学校、中学校、高校といじめにあったり、学校に行かなかったり、いろいろな状況が
本人の問題じゃなくて、環境との相互作用の中で生きづらくなってきている。しかし、
その生きづらさの原因が発達障害であることがわかった段階で、あ、自分の性格が悪い
んじゃなかったんだと、そしてまたこれからどういうふうに生きていこうかという、一
つの指針を得ることが出来たんじゃないかと、そういった理由から、ほっとしたという
人が多いんじゃないかと思います。」
キャスター「これまで上手く行かなかった原因が全くわからなかったけど、それがはっ
きりすると、少しほっとするというのが多いわけですね」
梅永先生「他の病気も同じかもしれません。お腹が痛いといっても、きちんとした診断
がされることによって、処方箋が出来ますよね、そういった状況に近いと思います。」

キャスター「一方の、その受け止める企業側ですけども、企業側ではどういう対応が
必要になりますか。」
梅永先生「まず最初に、発達障害という障害を理解してもらえることですよね、そして、
発達障害者も色々な特性を持っていますので、発達障害の理解の次には、個々の発達
障害者、当事者の特性を理解するということ、とりわけその当事者の方々が、どんな問題
を抱えていて、どんなニーズがあるのかということを、周りが把握することだと思います。」
キャスター「ふーん、特にその人がどんなことが苦手なのか、どんなことが得意なのかと
いうことが大事になりますよね。」
梅永先生「得手不得手が非常にこう、ばらつきが多い人が発達障害者に多いので、苦手な
ところを見ていくのではなくて、よく言われることなのですが、得意なところを伸ばして
いく、得意なところの仕事をみつけてあげることでいいと思いますね。」
キャスター「特性を正しく理解するということで。」

キャスター「さぁ、今、企業では発達障害の特性をプラスに活かす職場づくりの模索を
始めています。」

<東京都千代田区 Kaien>
国や自治体の依頼を受けて、発達障害者の就労支援をする企業です。
朝9時、実際の職場さながらのトレーニングが始まります。
職場で自分の個性をどのように活かせるのかを分析し、弱みを補うための
訓練を行います。

代表取締役 鈴木慶太さん
「自分がどういうところで活躍すればいいか、どういう職種が合っているか
というのがすごく分かりにくい」
(VTR編集でカット)
「そちら(合う職場)に上手にナビゲートする橋をかけるような形ですね。」

上司役は、20年以上企業で働き、管理職の経験があるスタッフが務めます。
発達障害者の個性が職場でどう受け止められるかを判断してアドバイスします。

コミュ障「工法や寸法みたいなことは把握しないといけないのかと思った」
上司役スタッフ「わかるようにまとめてから来るようにしてくれます?」

この男性は、上司への報告へあたって、作業の細かい内容に拘っていました。
細部に拘るという特性は、報告の場面では、情報が細かくなり過ぎ、的確に伝えられ
ないという弱みになります。スタッフは、考えを整理してから報告に来るよう、
コミュニケーションの技術をみにつけさせます。
更にその特性が職場でどのような強みになるのかアドバイスをして、自信をつけて貰
います。

この3年間で90人以上が就職に成功しています。

<大手IT企業 ワークスアプリケーションズ>
このトレーニングを受けて、大手IT企業に再就職した人の紹介です。
コミュニケーションが苦手という、広汎性発達障害の一つ、アスペルガー症候群の診断
を受けています。

アスペ「そもそも、(場の)”空気”って何っていうレベルです」
(VTR編集でカット)
アスペ「何で”空気”読まなきゃいけないのとか、そもそも”空気”って何なのとか」

この会社では、アスペの「”空気”が読めない」特性を、「どんな時でも確認する」と
いう強みと評価し、エンジニアらのスケジュール管理を任せています。作業の進捗を
細かくチェックし、あやふやな所があればすぐに質問に行きます。この取り組みは、
社内の情報共有の改善に繋がりました。
そして、業務マニュアルを作成したので、エンジニアのミスが減るなど、業務が効率化
しました。

ワークスアプリケーションズ 運用技術グループ マネージャー 藤井信介さん
「”空気”が読めないのも、私としては非常にいいことだと思っていて、実際、製品を
提供する上で、”空気”を読んで買って下さいなんて言えるわけないですし、」
(VTR編集でカット)
「(アスペという)レッテル的な捉え方でするんじゃなくて、彼の性格の一つだったり
ポテンシャルの一つとして、我々付き合っていく」

<東京都港区 IT関連企業 アイエスエフネット>
発達障害の個性を貴重な戦力として位置づける企業もあります。このIT関連企業では、
この個性と仕事をマッチングさせる会議を週に一度、会社を上げて行なっています。

(会議の内容)
会議参加者A「入力系というのは業務としてあるので」
会議参加者B「具体的な指示があれば何でもできますよってことで、」
(コンピュータに入力された発達障害従業員のリスト)
提案日 診断名 
2月25日 アスペルガー 精神
2月10日 ADHDアスペルガー鬱病、感情コントロール不全 精神
2月15日 アスペルガー 精神3
1月19日 アスペルガー・不安強迫性障害躁うつ病 精神3
2月1日 広汎性発達障害 精神3
(日付空欄) 広汎性発達障害 精神3

20人程いる発達障害を抱えた人や障害者を対象に、それぞれの能力の能力を見極めて
配属します。

商品の企画を行うことになったこの男性は、アスペルガー症候群の診断を受けています。

アスペ「”神経質力”というんでしょうか こう、何か間違いを出すということに対して
なんか、ちょっと拘りみたいなものがやっぱりありますんで。」

担当する業務は、データの集計や資料のチェック、人一倍の集中力でミスをみつけ、他の
社員より短時間でまとめあげるといいます。

(個別面談パーティション発達障害の特性が弱みとして現れた場合、それをカバーする人事制度もあります。それぞれ
の社員には業務上の繋がりとは別に、コア上司と呼ばれる上司がつきます。
アスペ「お腹の調子が悪くなったり、まぁそのちょっと体調がね、崩れたりすることがある」
(VTR編集でカット)
コア上司「自分でちょっと体調がおかしいなと思ったら、その時もすぐに言ってくださいね」
アスペ「はい、わかりました。」
コア上司「無理だけはしないこと」
アスペ「はい、ありがとうございます」

社員は、仲のいい先輩や、別の部署の人を自由にコア上司に選ぶことができます。普段の生活
や、直属の上司に言いづらいこと、いわば、親代わりになって相談に乗ってくれるのです。
コア上司は、相談された案件について、直属の上司と対応策を考えます。

(直属の上司の席へコア上司が来る)
コア上司「もっとやらなきゃいけないと思ったら、お腹の調子を崩しちゃう」
直属上司「なるほど、こっちから声掛けするような形って増やしたほうがいいのですかね」
コア上司「そうですね」

アイエスエフネット 代表取締役 渡邊 幸義さん
「(会社が)その障害を理解し、そして、その人を受け入れる、配慮をしていくことによって、
発達障害の方は、十分に自分の力を発揮することができると、私は確信しています」

<スタジオ>
キャスター「確かに、神経質というとちょっとマイナスイメージですが、神経質力になると、
細かいことに気がつくというようになってきて、プラスのイメージになってきてしまって、
逆転の発想って大事かもしれませんね」
梅永先生「非常に大事ですね。あの逆に、定型発達といわれている、健常といわれている方々が
出来ないような、そういった独特の能力をもっていらっしゃる方、沢山いらっしゃいますね」
キャスター「特性にあった仕事をしっかりと見つけることが大事だということはわかったのです
が、それ以外に何か、大事な視点はありますか」
梅永先生「そうですね、仕事そのものの能力のことをハードスキルというのですけれど、
この仕事そのものに関しては、出来るだけ具体的に、そして、視覚化っていうんですかね、
見える化っていうんでしょうかね、あの、目で見えるような、そういうマニュアルであれば
非常にわかりやすいと思います」
キャスター「うーん、その仕事の面以外で大事なポイントはどうでしょうか」
梅永先生「実はこれが非常に大きいんですけど、仕事以外の面のことを、ソフトスキルというのですが、
あの、米国では、この調査がありまして、アスペルガー症候群等の発達障害の方の、
離職理由の8割以上が、ソフトスキルが原因だったということだったんですね。」
キャスター「ソフトスキルというのは、具体的にはどういうことでしょうか。」
梅永先生「仕事そのものがハードスキルという言葉ですので、例えば日常生活能力ですね。
遅刻をしてしまうとか、それから、余暇の過ごし方とか、
一番のポイントはコミュニケーション能力を含む対人関係ですね。
このソフトスキルの部分が、一番離職として、大きな要因としであったりして、
そうです、8割以上といわれています」
キャスター「ああ、見逃せませんね、具体的にはどういう、その、成功例がありますか、これまで。」
梅永先生「成功例ですか、例えばですね、ある女性の方はですね、お昼休みが苦手なのですよ。
その女性の方は例えばファッションとか、あるいは、アイドルに興味がないので、
で、そういうその女性同士が一緒に食事をするのが非常に苦痛に感じると。
ですから、一人で、トイレの個室で食べてらっしゃった方がいらっしゃったのですね。
で、そういった場合は、そういったその集団に入ることを、望んではいなくて、
えー、一人になりたいってことがわかれば、一人で食事をするという、そういった配慮が必要だと思います」
キャスター「あの、誘う人ももちろん、悪気があってね、誘うわけじゃないですよね、
あの人に食べましょう、と、でも逆効果になってることがある、ってのを知っておく必要がある」
梅永先生「そうですね、仕事そのもの9時から12時まで問題ないんですね、ハードスキル。
しかし、12時から1時の間のお昼休みが、その時間が非常に苦痛だとおっしゃる方もいらっしゃいます。」
キャスター「自由時間とか余暇時間をどう過ごすかっていうことも、
その人の特性を理解した上で接することが必要と。」
梅永先生「ええ、それから、残業の問題もありますよね、
そして、日本にはよくある、飲み会とかありますからね、ああいった非常にあの、
苦痛で、飲み会に参加したくなかった方もいらっしゃいますが、
日本では、和をもって尊しとなす、というような風潮がありますので、
付き合いが悪いという、そういう見方をされるかもしれません。」
キャスター「そうしますと、その、やっぱり一人ひとりをしっかりと見ていくと、
いうことが大事ですね」
梅永先生「そうですね、本人のニーズっていうんですか、これを周りが理解してあげる、ってことですね」
キャスター「ふーん、その就労支援のための、そのキーワードというとどうなりますか」
梅永先生「大きく分けると、私は2つあると思います。
一つはですね。ジョブマッチングという問題ですね。ええ、就職はできるけれども、
離職する方は、その仕事が上手くマッチングしていない、そういった方も多いと思います。
IT関係が有名ですが、それ以外でも、イラストレーターをされるとか、あるいは、
動物関係の仕事をされる方、そういった方もいらっしゃいますので、
適切なジョブマッチングをすることによって離職を防ぐ。
もう一つはやはり、会社の上司、同僚、そういった方々が、発達障害ということをきちんと理解し、
そしてその人にあった職場配置をして、周りでサポートすることだと思います」
キャスター「はい、今夜は梅永雄二さんとお伝えしました、
どうも今日はありがとうございました」
梅永先生「ありがとうございました」

この番組の最大の問題は、発達障害者にも独特の良い点を持つ人もいることを、必要以上に強調している点。全ての発達障害者が良い点を持っているかのよう印象付けていることである。そもそもここで話題になっている人間は、「知的障害には該当しない障害者(自閉症など)」であって、IQが知的障害レベルではないという意味しかない。中にはたまたま知能が高い者もいるだけのことである。一例をあげれば、ここで再就職事例で特徴を活かせたと紹介された障害者のうち一人は、有名進学校から一流大学を卒業したと言われている。しかし、色々調べても常人と比べ知能が高い傾向にあるという話は一度も聞いたことがない。ほとんどが障害は持ちつつも、人並み程度の知能しかないということだ。これを誤解させる構成の番組はかなりの危うさを持っている。

引用するが、

特徴
・集中力や記憶力は優れている場合がある。

<昭和大学附属烏山病院 加藤進昌先生>
(VTR編集でカット)
「それは結局その人達の才能を生かさない会社、生かさない職場であるという
ことに、なってしまうかもしれませんね」

<国立精神・神経医療研究センター部長 神尾陽子先生>
(VTR編集でカット)
「その結果、いろいろな多様な才能や意欲や人々の活用ができなくて、社会全体が損害を
被っていると思います」

専門家の指摘としても、冷静に読めば「中には才能を持つ人が居るのに、その才能をもつ人達を上手く活かせないのは損かもしれない」である。単に(障害者のうちの一部の)才能がある人は活用出来る、と言っているだけなのである。才能を持たない大部分の発達障害者、今回の放送では具体的には生活保護受給の女性しか出なかったが、こちらの方がうんと大量にいるのは当然、それらが不況や産業構造の変化により、その存在自体が社会問題として露出した。そちらの方が報道すべき事実である。

山下清は知的障害のある人気のある有名なちぎり絵作家(芸術家?)だが、知的障害のある人の大部分が有名なちぎり絵作家になる素質があるとは言えない。しかし、この番組はそのようにミスリードしているのである。情報番組として社会に問いかけるなら、このように一部の才能を持つ人をことさら取り上げて、経営者・健常者を騙すのではなく、余力の無くなった日本で顕在化したこれらの障害者をどのように取り扱うかが社会の喫緊の課題であるということを示すべきであろう。

番組へ言及しているURL
http://d.hatena.ne.jp/ruisou/20130325/1364213016
http://blog.goo.ne.jp/okanikki39/e/db0fbbbe250f3cea74ae7eccaa85208f